タカダワタル的(映画)
晩年の酔っ払いのじいさん伝説のフォークシンガー高田渡に150日間密着した、どんなフィクションよりも衝撃的なドキュメンタリー映画。
国が認めない人間国宝
正直言って高田渡に関する予備知識はほとんどなく見ました。
もちろん「自衛隊へ入ろう」などのフォーク全盛のころの曲は聞いたことがあって、皮肉屋のシンガーというイメージだったのですが。
この映画が公開されたのは2004年ですが、2005年4月3日に彼は亡くなっています。
原因は「お酒」。
画面に映る彼も始終ろれつが回らなく、実際の年齢よりずっと老けて見えます。
言葉は悪いですが、典型的なアル中といった感じです。
語りネタの15Aの電気しか通っていない木造アパート暮らしもお金がお酒に変わっちゃった結果なんでしょう。
でもなんとも憎めないんですよね。
「飄々と」という表現は当てはまらないかもしれませんが、日本語の詩を愛し朴訥とした味わい深い歌と、まるで別の生き物のように動く右手から奏でられるフィンガーピッキング。
年をとったらあんなふうに肩の力を抜いてギターを弾きたいと思うのです。
仕事がなければ昼間から酒を飲み(ステージでも飲んでいるが)、千鳥足で街をふらつくオッサンを決して褒めることはできません。
しかし中津川フォークジャンボリーで「ごあいさつ」を歌う映像と比べたとき、晩年の彼の歌はなんと深みがあるのことか。
不覚にも「ブラザー軒」ではこみ上げてくるものを抑えきれなくなり
ました。
「あんなふうになりたい」
「あんなふうになってはいけない」
そんなジレンマを感じさせる不思議な映画です。
できればもうちょっと自制して長生きしてほしかったなあ。一度くらいはライブを見ておくべきだった。
奇しくも柄本明が最後の場面で言っています。
「高田渡のようになりたいと思った時点でなれないんだよね。」
下北沢ザ・スズナリ(via.東京都内の小劇場一覧 )や京都「拾得」でのライブ映像、彼の息子でマルチ弦楽器奏者の高田漣や中川イサト、シバとの競演など音楽的な見所も満載です。